第1章

4/9
前へ
/9ページ
次へ
「あの、前に会った事あったっけ?」 いつものように彼女を見ていると、ふいに視線が絡んだ。 見つめあったまま3秒間、彼女は僕へ近づいてきて首を傾げながらそう尋ねた。 「…………いや、」 首を振って僕は否定する。 彼女は僕の事なんて知らない。そのはずなんだ。 そっか、と呟いた彼女は僕に手を振り、 「バイバイ」 ニコッと笑って友達の元へと戻っていった。 ……気が付かれてしまった。 一度僕の視線に気が付いた彼女は、向けられるそれに敏感になる。 交差点ですれ違うたび。お店のガラス越しに向かい合ったら。車道を挟んで並んで歩いていたら。 そんな所で目が合うたびに、彼女は笑って小さく手を振る。いつもそうだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加