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些細なふれあいを続けて数週間が過ぎた頃、駅のホームで振り返った彼女は僕に声をかけてきた。
「また会った」
瞼と唇がそれぞれ逆向きの弧を描き、それが不快から出た言葉で無い事を表す。
「うん」
まただね、と答えながらつられて僕の口角も上がる。
その一言から僕らは、たわいない会話をする仲になり、少しずつ親しくなっていく。
僕は彼女の事なら何でもわかる。
次にどこへ行き何をしたいのか。
どれとどれで頼むメニューを迷っているのか。
大体想像のつくそれらの答えを言われなくとも提示して、気が合うと思わせる。
半分にした物を食べながら、どっちも美味しいと呟く彼女に、ああこのままずっといられたらいいと幸せを噛みしめた。
気が合うと思わせるのは、早く親密になるため。
元々辿るべき道の最初ぐらい、駆け足になってもいいじゃないか。
望んだとおり、間もなく僕らは付き合いだした。
もう知らないふりして探さなくていい。
視線を向けたらまっすぐ返ってくる。
後ろ姿じゃなく、目線より少し低い位置につむじが見える。
渡るのは同じ横断歩道だ。
そしてあの笑顔が僕に向けられる。
何でもない普通の日常を過ごし、昨日の続きが今日もある。
小さな事でも幸せを感じる。
思わずフフッと笑いがこぼれると、「なーに?」と小首を傾げる姿がある。
君が隣にいるから。なんて言えずに何でもないよと誤魔化して、不満げな姿にまた唇が歪むのをこらえられない。
そんな風に、特別なんて何にも無くてよかった。
当たり前のようにここに二人で居られるだけで。僕はずっとそう思っている。
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