第1章

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些細なふれあいを続けて数週間が過ぎた頃、駅のホームで振り返った彼女は僕に声をかけてきた。 「また会った」 瞼と唇がそれぞれ逆向きの弧を描き、それが不快から出た言葉で無い事を表す。 「うん」 まただね、と答えながらつられて僕の口角も上がる。 その一言から僕らは、たわいない会話をする仲になり、少しずつ親しくなっていく。 僕は彼女の事なら何でもわかる。 次にどこへ行き何をしたいのか。 どれとどれで頼むメニューを迷っているのか。 大体想像のつくそれらの答えを言われなくとも提示して、気が合うと思わせる。 半分にした物を食べながら、どっちも美味しいと呟く彼女に、ああこのままずっといられたらいいと幸せを噛みしめた。 気が合うと思わせるのは、早く親密になるため。 元々辿るべき道の最初ぐらい、駆け足になってもいいじゃないか。 望んだとおり、間もなく僕らは付き合いだした。 もう知らないふりして探さなくていい。 視線を向けたらまっすぐ返ってくる。 後ろ姿じゃなく、目線より少し低い位置につむじが見える。 渡るのは同じ横断歩道だ。 そしてあの笑顔が僕に向けられる。 何でもない普通の日常を過ごし、昨日の続きが今日もある。 小さな事でも幸せを感じる。 思わずフフッと笑いがこぼれると、「なーに?」と小首を傾げる姿がある。 君が隣にいるから。なんて言えずに何でもないよと誤魔化して、不満げな姿にまた唇が歪むのをこらえられない。 そんな風に、特別なんて何にも無くてよかった。 当たり前のようにここに二人で居られるだけで。僕はずっとそう思っている。
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