第1章

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「仁志君には、絶対に勝つ」 「まあ、まあ。あんまりはりきりすぎると逆に力が出ないわよ」 「そんなことないよ、ママは僕に勝ってほしくないの」 「もちろん健太には勝手欲しいわ、でも二人が力をだしきったらそれでいいんじゃない」 「そうはいかないよ今年こそ勝つ!」 「しょうがないわね」  仁志君とは同じマンションに住む健二の同級生だ。二人とも同じ小学校に通っている。健太と仁志君は仲良しだ。そしていいライバルであった、背丈も同じぐらい、運動もいい勝負。勉強も同じくらい―クラスのどの辺で争っているかは二人の名誉のために秘密にしておこう―とにかく何かにつけて張り合っていた。 しかし、二人の間で何故か差がついてしまうことがあった。それがかけっこだ。体育の授業でも、運動公園で遊んでいてもいつもわずかの差で健太は負けてしまう。力量が大きく離れていればあきらめもつくが,なまじいい勝負でいつも負けてしまうことが健太には気に入らないらしい。 小学校3年生とはいえさすが男の子だ、男の面子がすでにあるらしい。母親として微笑ましい。私も明日の運動会が楽しみになってきた。結果はどうであれ2人の健闘を私は祈った。 運動会当日、健太と仁志君の番がきた。二人とも顔が少しこわばっている。 「健太、仁志君,リラックス、リラックス」  健太は私の声援に気が付き手を振り返したが顔はこわばったままだ。 「位置について、よーい。ドン!」 号令とともにスタートした。スタートは二人ともほぼ同時だ。小さな子供だが必死になると本当に早い、もうスタートしたと思ったらあっという間に中間地点に差し掛かった。ここからが勝負だ。健太の表情が険しくなっていく、でもそれに比例して皮肉にも仁志君と差がつき始めた。仁志君の表情は涼しげに見える。 「健太!がんばれ」 声援もむなしく差は縮まることないまま仁志君がゴール、そのすぐあと悔しそうな顔をして健太はゴールした。本当に残念。 母親としてはちょっと残念だがまた来年がんばればいいと思う。 そして、二人は深夜のグランドから姿を消していった......。  健太が運動会の当日の朝交通事故に遭い帰らぬ人となったのはもう10年前だ。当時は悲しくてなにもできなかった。
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