六車の末裔

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 兵馬は酒屋で呑んでいた。江戸の数寄屋橋にあるすき焼き屋で一人寂しく。  近藤勇、土方歳三たちが鬼籍に入ったと聞いたときは狂喜乱舞した。近藤は流山で官軍に見つかり、斬首された。皮肉にも発見したのは、新撰組OBの加納鷲雄だったと聞く。  土方は五稜郭の戦いで被弾し、死んだ。  残っているのは永倉新八と斎藤一くらいだ。  勘兵衛の父親は六車宗伯という剣客だ。甲源一刀流で、武州一円の百姓を味方につけ多摩の近藤一派を襲撃したことがあった。  弟子の七里研之介などが命を落とした。まだ、近藤たちが京に上る前の話だ。  近藤の首を取ることを、糧に生きてきた兵馬にとって新撰組壊滅は辛いものだった。  兵馬は明治政府の壊滅を新たな目標とした。  その夜、王子にある飛鳥山にやってきた。音無川が流れ、周囲には料理屋が並ぶ。  古畑はそこで本を置いた。司馬遼太郎同好会の有馬が書いたものだ。 「六車とは、またマイナーな人物を使ったな。はぁ、面白い」  烏丸通りにある喫茶店でカプチーノを飲みながら読んでいる。有馬の祖先は本当に六車に支えていた。 「古畑さん、ジャグマアミガサタケって知ってますか?」  有馬が尋ねてきた。60を過ぎているが金髪でサングラスをしている。「ロックンロール」と、今にも言い出しそうだ。 「あれは猛毒ですよ。キノコを蒸した蒸気を吸い込んだだけであの世ゆきです」 「本当にあるんだ。いや、友達から聞いた話ですから、しかも頭があまりよろしくない」 「僕の知り合いにもいるんですよ、頭の薄い馬鹿が。クックッ、天然記念物ですよ」 「あははは、こいつなんですけどね…」  有馬がスマホの画像を見せてきた。頭がテカテカ光った男がニカーッと笑っている。 「今泉」 「あれ?知り合いなんですか?」  こんな偶然あるわけがない。気味が悪い。 「あなたぁ、嘘をつかれてますねぇ?」  喉が掠れている。龍角散でもないかな? 「うっ、嘘?何のことですか?」 「六車は架空の人物なんです。司馬遼太郎が創り出した人物ですよ。加納惣三郎とかぁ…あれぇ?ご存知なかった?」  
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