第4章 記憶の正体

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幼いころの記憶は島のようなものだ。その時間だけが記憶として残っていて、それ以外の部分はすっかり忘却の海に溶けてしまっている。なぜ母が一番輝いていたたった一日の記憶にあんなにこだわったのだろうか。 11月に入って、また、城ケ島公園を訪れた。三崎口から、いつものようにバスに乗る。冬が近いせいか展望台からの見晴らしは良く、右には伊豆半島、左には房総半島がくっきりと見え、そして正面には、大島、利島、新島といった島々が連なっている。首筋に覚えのある視線を感じてふりかえると、やはりあの男性だった。彼は最初から私を待っていたように、まっすぐにこちらを見ていった。  「失礼ですが、SKさんではないですか。」 驚いたことに彼は私のフルネームを言った。 「ずっと来ませんでしたね。あれから実は何度かここに来ていたのですよ。最初からもしかしたらと思っていましたし、小さいころの想い出…というから、これはもうきっとそうだと思いました。あ、自分はMTと言います。実は20年前、父と一緒にSさんとお母様に会ったことがあって、ここは私にとっても想い出の場所なのですよ。いや、本当に奇遇だなあ。」  私は驚いてMTと名乗った男性を見つめた。ふと、なにかの殻が割れたように、記憶がよみがえってきた。あの日いたのは、母、私、そしておじさんだけではなかった。おじさんの横にはもう一人…お兄さんがいたのだった。  「本当に…不思議ですね。私もあの日の母とおじさんを想い出してみたのですけど、どうしてもおじさんの顔がMさんになるのですよ。最初にお見かけした時から変だと思っていましたけど。」
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