第2章 城ケ島公園

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第2章 城ケ島公園

あの記憶の場所が城ケ島公園だと分かったのは、職場の仲好しグループでたまたまそこに行く機会のあったときだった。京浜急行の三崎口で降り、そこからバスに乗り換える。城ケ島についてからは少し歩くが、気持ちのよい道だ。小雨が降っていたが、城ケ島には、「利休ねずみの雨」も悪くない。公園の遊歩道をしばらく歩くと、展望台がみえてくる。展望台といっても、ただ棟があるというのではなく、コンクリートの東屋という造りになっている。この展望台をみたとたん、すぐに分かった。幼い頃の海の見える大きな家というのはここだったのだ。考えてみれば、家の中から視界いっぱいに海の光景が広がるなんてことはない。この展望台からの海の光景を、幼い私は「海のいっぱい見える大きな家」と記憶したのだろう。そして、記憶の中の光景がここだとしたら、もう一つこの先にも「海の見える大きな家」があるはずだ。そう思って、展望台から城ケ島の先端を望むと、ずっと向こうにもう一つの展望台の緑色の屋根が見える。もう間違いない、たしかに幼いときにここに来ている。  あの頃、母と私は東京都下に住んでいた。それなのに、よく保育園では「赤い電車に乗って」で始まる京浜急行の歌を歌っていた記憶がある。なぜ赤い電車だったのだろうか。たぶん母に連れられて乗った電車の印象がそれだけ強烈だったからではないか。母と私は赤い電車に乗り、三崎口の駅で、おじさんと待ち合わせたのではないか。  記憶の中の光景は晴れだったが、今日は菜種梅雨。あまり物思いにふけって口数も少ないと、連れの仲間も変に思うだろう。今度は一人で城ケ島に行ってみよう。もしかしたらさらなる想い出の断片がみつかるかもしれない。
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