第2章 城ケ島公園

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 次の週末も城ケ島公園に行ってみた。公園入り口から最初の展望台に行き、さらに、それからもう一つの緑の屋根の展望台に行く。海も磯も、そしてこちらの展望台からよくみえる白い灯台も昔と同じはずだ。私は柵によりかかって、20年前と同じ海、20年前と同じ灯台を眺めた。こうやって、ぼんやりと海を見ているのも悪くない。時間の経過とともに、海のきらめきはゆっくりと位置を変えていく。ふと私は首筋のあたりに視線を感じて振り返る。いつの間にか、展望台には、そしてもう一人の男性がいるだけになっていた。確かに視線を感じたのだが、今ではその男性も展望台も反対側の手すりに持たれて海を見ている。  ふと不思議な気がした。20年前のあの日、母は見知らぬおじさんと一緒にいた。そしてやはりこの展望台でこうやって海をみていたはずだ。おじさんの姿は漠然とした記憶しかないが、その漠然とした記憶を無理にひきだそうとすると、なぜか目の前の見知らぬ男性に重なるような気がする。違うのは、母とおじさんは互いに目をみかわしていたり、指をからませたりしていたのに、私とあの男性とは互いに無関係の他人だということ。そして母とおじさんの傍には小さな私がいたのだが、今、この展望台には二人の外には誰もいないということ。こんなことを考えてしまったのを、あの見知らぬ人に申し訳なく思いながら、素知らぬ顔で、展望台を降り、再び公園の道を歩いてみる。見知らぬ男性は、まだ展望台にいるようだ。なぜかまた、背中に彼の視線を感じたような気がした。
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