#1 クォ・ヴァディス

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 少し経って、コンコンとドアをノックする音があり、桜が 「はい?」  と中で返事をすると、開いたドアから洗い物を終えた絵笑子が顔を出した。 「どう? 進んでる?」 「あ、――ハイ、なんとか」 「何か手伝うこと、ある?」  そう言いながら、絵笑子は後ろ手でドアを閉め、壁に凭れた。 「あー……いまは、平気です……」  桜の返事を聞きながら、絵笑子はそのまま黙って桜の一挙手一投足を眺め続けていた。  視線は感じていたが、桜は応えず、部屋のもう一人の存在と気配を窺った。  と、絵笑子が独り言のように呟いた。  その声は部屋に沸き立つ埃とともにシンとしていた部屋に満ちた。 「ホントは、初めてじゃ、ないの」 「え?」  唐突な告白に桜は手を留め絵笑子に視線を向けた。 「私ね――あなたに遭ったことがあるのよ。 もう、ずっとずっと前だけど」
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