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少し経って、コンコンとドアをノックする音があり、桜が
「はい?」
と中で返事をすると、開いたドアから洗い物を終えた絵笑子が顔を出した。
「どう? 進んでる?」
「あ、――ハイ、なんとか」
「何か手伝うこと、ある?」
そう言いながら、絵笑子は後ろ手でドアを閉め、壁に凭れた。
「あー……いまは、平気です……」
桜の返事を聞きながら、絵笑子はそのまま黙って桜の一挙手一投足を眺め続けていた。
視線は感じていたが、桜は応えず、部屋のもう一人の存在と気配を窺った。
と、絵笑子が独り言のように呟いた。
その声は部屋に沸き立つ埃とともにシンとしていた部屋に満ちた。
「ホントは、初めてじゃ、ないの」
「え?」
唐突な告白に桜は手を留め絵笑子に視線を向けた。
「私ね――あなたに遭ったことがあるのよ。
もう、ずっとずっと前だけど」
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