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桜は、別の疑問を絵笑子にぶつけた。
父に問い質してもよかったのだが。
「あの――表札には、父の苗字と並べて『首藤』ってあったんですけど……」
桜の質問を察して絵笑子が答えを被せた。
「そう。籍はね、入れてないの」
「どうして、ですか?」
やや間を置いて絵笑子が返した。
「いろいろあるのよ。――それに、なんか、今更って感じで、ね」
「ハア……」
絵笑子の当を得ない答えにやや納得がいかない桜だったが、絵笑子のほうも、言いたい言葉を飲み込んだようにみえた。
いずれ、時期が来たら話してくれるだろう。
けれど、構えることのない絵笑子の態度に、桜も少しだけほっと安堵もした。
このひととは、少しずつ、ほぐしていければ、いい。
* * *
少し経って、表札には『去多 首藤』と共に『荻野』の文字が書き加えられた。
並んだ文字を眺め、
――まるでシェアハウスのようだな。
と桜は思った。
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