#1 クォ・ヴァディス

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 桜は、別の疑問を絵笑子にぶつけた。  父に問い質してもよかったのだが。 「あの――表札には、父の苗字と並べて『首藤』ってあったんですけど……」  桜の質問を察して絵笑子が答えを被せた。 「そう。籍はね、入れてないの」 「どうして、ですか?」  やや間を置いて絵笑子が返した。 「いろいろあるのよ。――それに、なんか、今更って感じで、ね」 「ハア……」  絵笑子の当を得ない答えにやや納得がいかない桜だったが、絵笑子のほうも、言いたい言葉を飲み込んだようにみえた。  いずれ、時期が来たら話してくれるだろう。  けれど、構えることのない絵笑子の態度に、桜も少しだけほっと安堵もした。  このひととは、少しずつ、ほぐしていければ、いい。     *   *   *  少し経って、表札には『去多 首藤』と共に『荻野』の文字が書き加えられた。  並んだ文字を眺め、 ――まるでシェアハウスのようだな。  と桜は思った。
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