#2 転校生

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(1) 「明日から学校だよ。――うん、だいじょうぶ」  3学期の始業式を控えた夜、桜は幸生とアプリの無料通話機能を使って話をした。  離れてからも毎日何度もLINEでメッセージのやりとりはしていたが、今夜はどうしても声を聞きたくなり、桜のほうから“○時にかけるから”と事前に約束をした。 「そっか。新しい学校、早く慣れるといいね」 「うん」  と返事はしたものの、そのじつ桜の心中は不安でいっぱいだった。  転入の手続きで学校を訪れてはいたが、やはりじっさいに生徒たちが場所に飛び込むのでは心持ちが違う。  新しい学舎(まなびや)は桜をどう迎えてくれるのか。それを考えると気は晴れなかった。     *   *   * 「どうした? 聞いてる? 桜」 「――あぁごめんね、ちょっとぼんやりしちゃってた」  一瞬、上の空で幸生の声を聞いていたことに気付き、桜は返事をして誤魔化した。  けれど、幸生はお見通しだったようだ。 「もう、眠い? ここんとこずっと気を張ってただろうから、もう休んだほうがいいかな」 「ううん、へーき。まだ大丈夫」  ホントは眠かったわけではない。  明日から訪れる日々を思うと、心が沈んでしまうのだ。  新しい環境への期待なんかほとんどない。  何よりも、傍に幸生がいない――  それが、どうしようもなく、寂しかった。 ――会いたいよ。   いっしょにいたいよ、幸生くん――  桜は、体の芯から湧き出る言葉を必死で喉の手前で圧し止めていた。  気がつけば、かなり長い時間電話を続けてしまっていた。  そろそろ終いにしないと、幸生も迷惑するだろう。  桜は後ろ髪引かれる思いで言葉を吐いた。 「いろいろありがと。――もう遅くなっちゃったし、そろそろ切らないと、ね」 「――また、いつでも大丈夫だから、話そうな」 「うん――おやすみ」  通話を切り、寝床に潜り込んだ後も、桜の心のモヤモヤは消えることはなかった。  不安を全身で抱いて桜は夜を過ごした。
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