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バスから降りると、桜と同年代の男女が列をなして同じ方向へ歩いている。桜もその列に従った。ほどなく、前方に校舎らしき建物が現れてきた。
白い雪化粧のせいか、校舎の壁の色は少し暗く沈んで見えた。
まだ新しい制服を作っていないため、桜は前の学校の制服を着用して登校した。それが生徒の群れの中では妙に浮いて見えるせいか、桜は背中に後続の生徒らの視線を感じた。
気がつけば、桜の足はもう校門の数歩手前まで届いていた。
ふと足を停める。
学校の門の前に立ち、桜は聳える校舎を見上げた。
生徒たちが通りすがりにひとりだけ違う桜の制服を物珍し気に眺めていく。
そのまますんなり通り過ぎればよかったのだが、いったん立ち留まってしまった足は強張ってなかなか前に出てはくれない。
焦る気持ちがますます桜の意志を鈍らせる。
コートのポケットに突っ込んだ掌が、入っていたスマホに触れ、ぎゅっと握った。
その刹那、突然スマホが着信を報せた。バイブレーションが掌紋に伝わる。
はっとしてスマホをポケットから取り出し、画面を見る。
幸生からの返信。
桜は画面をスワイプし、メッセージを表示させた。
“がんばれ”
それを見て、桜はゆっくりと深呼吸をひとつして、校舎を見上げた。
体の芯から熱い気が湧き上がる。
「がんばれ、私」
桜は一歩を踏み出し、校門を通っていった。
靴底で‘きゅう’と雪が鳴いていた。
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