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ベッドに潜り込んだものの、心が嵩ぶってて目が冴えてしまっている。
仕方なく、本でも読めば眠くなるかと、桜は体を起こし部屋の隅の父の蔵書の山に手をかけた。今しがた幸生と話題にしていた“ゴダール”の本を山から引っ張りだそうとしたところ、ギリギリのバランスで保っていた本の山が一気に雪崩を起こしてしまった。
「きゃっっ」
崩れた本が床に広がる光景を見て、桜は溜息を漏らした。
「あーあ……」
いったい、どうやったらこんなに本が溜まるのだろう。
父親ながら、桜は泰秀の読書量に感心と呆れの気持ちを抱いた。
そんなことを考えている場合ではない。
足の踏み場もなくなった部屋のままでは、明日の朝が思いやられる。
仕方なく、桜はともかくも本を積み上げ直す作業を始めた。
と、ふと手にとった本に、蔵書の中には珍しく、漫画の単行本があることに気付き、桜の作業する手が止まった。
この本の集合体には似つかわしくない、マニアックな――細かく分類するなら、やおい系の――少女漫画風の絵柄が表紙を飾っている。目につかない訳がなく、桜は書影を二度見した。
「……あれ?」
何気なく見ていた桜の目が本のタイトルをロックオンする。
桜は思わず題名を声に出して読んだ。
「――『ノリ・メ・タンゲレ』……『わたしに触れるな』……これ、って……」
桜の脳裡に、紐付けされたメモリが再生されようとしていた。
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