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「机の上にあった漫画、なぁに?」
学校から帰宅して顔を合わせるや、絵笑子が桜に声をかけた。
「絵笑子さん、あそこに置いてあったの、読んだの?」
思わず桜が問い質す。
「うん――けっこう面白い内容だったね。なんとなく目に入ったから開いて、結局読み込んじゃった。エスエフ、って言うのかな? ああゆうの」
週に一回程度、絵笑子は桜の部屋の掃除をしてくれる。
桜も別に自分のテリトリに絵笑子が入るのを嫌なわけではないが、やはりどこか気兼ねしてしまう。
汚したのは自分なのだから、ちゃんと自分で綺麗にすべきなのだ。
桜自身はそう思う。けれど自立心は強いが行動が伴わない。それが歯痒い。
もっともっと、大人になろう。
父や、絵笑子さんに世話を焼かせないように。
でも、いつもいつも思うだけだ。そんな堂々巡りに地団駄を踏む自分が情けなかった。
ばつの悪い桜を余所に、絵笑子が続けた。
「あれ、桜ちゃんの漫画?」
一瞬答えように迷ったが、桜は曖昧に
「――ううん――本の山に埋もれてたの。こないだ見つけた」
「じゃあ、泰秀さんの?」
「さあ――」
桜は曖昧に返した。
「絵笑子さんは、あの本知ってた?」
「ちっとも。泰秀さんがマンガ本に興味があるなんて、聞いたことないわ」
「だよね、やっぱり」
やっぱり。
桜は心で繰り返した。
少なくとも、父の関心のあるような類の本でないことは確かだ。
――今夜、どうしても確認したい。
確かに急を要す話ではない。
けれど、モヤモヤは早いうちに解消しておきたかった。
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