#3 マイ・フェア・レディ

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(7) 「机の上にあった漫画、なぁに?」  学校から帰宅して顔を合わせるや、絵笑子が桜に声をかけた。 「絵笑子さん、あそこに置いてあったの、読んだの?」  思わず桜が問い質す。 「うん――けっこう面白い内容だったね。なんとなく目に入ったから開いて、結局読み込んじゃった。エスエフ、って言うのかな? ああゆうの」  週に一回程度、絵笑子は桜の部屋の掃除をしてくれる。  桜も別に自分のテリトリに絵笑子が入るのを嫌なわけではないが、やはりどこか気兼ねしてしまう。  汚したのは自分なのだから、ちゃんと自分で綺麗にすべきなのだ。  桜自身はそう思う。けれど自立心は強いが行動が伴わない。それが歯痒い。  もっともっと、大人になろう。  父や、絵笑子さんに世話を焼かせないように。  でも、いつもいつも思うだけだ。そんな堂々巡りに地団駄を踏む自分が情けなかった。  ばつの悪い桜を余所に、絵笑子が続けた。 「あれ、桜ちゃんの漫画?」  一瞬答えように迷ったが、桜は曖昧に 「――ううん――本の山に埋もれてたの。こないだ見つけた」 「じゃあ、泰秀さんの?」 「さあ――」  桜は曖昧に返した。 「絵笑子さんは、あの本知ってた?」 「ちっとも。泰秀さんがマンガ本に興味があるなんて、聞いたことないわ」 「だよね、やっぱり」  やっぱり。  桜は心で繰り返した。  少なくとも、父の関心のあるような類の本でないことは確かだ。 ――今夜、どうしても確認したい。  確かに急を要す話ではない。  けれど、モヤモヤは早いうちに解消しておきたかった。
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