#3 マイ・フェア・レディ

12/13
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ
    *   *   *  父に「おやすみ」と伝え、桜は部屋に戻ると、きちんと辺を揃えて机の上の中心になるように単行本を置いた。  やっぱり、これは父が母から借りて返し忘れたものだった。  これがこの父の家で自分の前に現れたのは、偶然だろうか。  そうではなく、(えにし)なのだと、桜は思いたかった。  他ならぬ母の大切な想い出なのだから。  本を通じて、『運命を信じろ』と母が伝えてくれているのだ、と桜には思えた。 ――それに――  『瑞江さん』、と最後に父は母の名を口に出していた。  それだけで、桜にとっては充分だった。  満たされた心地で、桜は本の表紙を暫く眺めた。  寝床に就いて、桜は幸生にLINEのメッセージを送った。 “あのね。昨日、とぉっても大事な本、見つけたんだ  マンガ。すんごくいい本。  『ノリ・メ・タンゲレ』っていうの。  もしどっかで見つけたら、幸生くんも読んでみてほしいな”
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!