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父に「おやすみ」と伝え、桜は部屋に戻ると、きちんと辺を揃えて机の上の中心になるように単行本を置いた。
やっぱり、これは父が母から借りて返し忘れたものだった。
これがこの父の家で自分の前に現れたのは、偶然だろうか。
そうではなく、縁なのだと、桜は思いたかった。
他ならぬ母の大切な想い出なのだから。
本を通じて、『運命を信じろ』と母が伝えてくれているのだ、と桜には思えた。
――それに――
『瑞江さん』、と最後に父は母の名を口に出していた。
それだけで、桜にとっては充分だった。
満たされた心地で、桜は本の表紙を暫く眺めた。
寝床に就いて、桜は幸生にLINEのメッセージを送った。
“あのね。昨日、とぉっても大事な本、見つけたんだ
マンガ。すんごくいい本。
『ノリ・メ・タンゲレ』っていうの。
もしどっかで見つけたら、幸生くんも読んでみてほしいな”
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