#4 さびしんぼう

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(1)  一ヶ月が過ぎた。  引っ越しをしてからの慌ただしさを越え、あっという間に期末試験を迎え、試験休みに入った。  転校してすぐの学期末試験は、予想通り惨憺たるものだった。  これまで学校の成績は中の上くらいであったものの、やはり母の件と転校という大きな負荷のかかった状態では、学業に支障が出るのも已む無しだった。  父も絵笑子も、余計なプレッシャーを与えまいと「今回は仕方ないよ」と桜を慰めた。 「これまでいろいろ慌ただしかったしね。少しリフレッシュするといいよ」  父の言葉に桜は頷いた。 「うん。そうする」  たしかに、これまでは余りにも多くのことを抱えすぎ、その日その日を過ごすだけで精一杯に終わっていた。部活はおろか、友人をまともに作ることもできずに三学期が終わってしまった。  少し、息抜きをしよう。  桜はそう思った。  試験休みに入り、街を覆っていた雪も姿を消してきた頃、桜にもようやく気持ちにゆとりが出てき始めた。  アスファルトがむき出しになり歩きやすくなった市街を、桜は少しずつ散策するようになっていった。  外に出れば、まだそこかしこに除雪された小山が排ガスの煤を纏い島のように転々と黒いアスファルトの海に浮かんでいた。これまでとは違う、見慣れぬ風景にまだ桜は馴染めなかった。  雪国に住む性分なのか、学校でも教室で進んで話しかけてくれるクラスメートもなく、顔と名前が一致するようになっても仲のいい友人といえる者はできなかった。桜の孤独はじわじわと深まるばかりだった。 ――会いたいなあ。   話がしたい。顔を見たい。   幸生くんの、声が聞きたい。  散歩をしながら、桜はふとそんなことを想った。  幸生とは、お互い期末試験が終わるまでは連絡はメッセージだけにして、少し控えようと申し合わせをしていた。  ちょうど、向こうのほうが2日ほど先に試験休みに入ったはずだ。  歩きながら桜はスマホをいじりメッセージを書いた。  交差点で立ち止まると、送信する内容を確認した。 “こっちも試験 終わったよ  よかったら話さない?”  メッセージを送信し終わった直後、信号が青になり、桜はまた歩き始めた。
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