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おびえないで。
怖がらないで。
あたしは匠に抱かれながら、呪文のように囁く…。
「あたしはここよ。匠のそばにいる。だから、怯えないで。見えない影に、怯えないで」
そんな言葉は、マヤカシにしかならない。
でも、匠はそう言うあたしを見つめて、舌を絡めながらくちびるを重ねると、
「瑠生がここにいなきゃ、俺は後にも先にも、生きていない。そばにいろ。ずっと俺のそばにいろよ」
命令形だけど、命令していない。むしろ、懇願だ。その顔は、苦しそうで、悲しそうで、エクスタシーだ。
あたしは匠の頬を両手で覆うと、近くで匠の瞳を見つめた。
「匠。あたし、これだけは命がけでも守りたいの。譲れない」
「瑠生?」
「あたしは、匠より長生きする!」
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