御礼と綾子からの手紙(後日談)

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ご出産になる日までは、 お心を悩ませていたお鈴様でしたが、 生まれた子の可愛さに お気持ちが一気にほどけて、 幸せを抱きしめておいででした。 その姿はまるで、 異国の聖母マリアのよう。 よりそう利光様も、 それまでとは別人のように 良い父親になろうと努力なさるのでした。 それで殿のお心もやっと晴れ、 御許しを経て、 お鈴様はとうとうこの春、 正式にこの坂州城の次期当主・利光様の ご正室になられたのでございます。 私もとても嬉しくて……でも、あら? 私はまだ実子も持たないのに、 成長したこの子に、 おばあ様と呼ばれるのかしら? それは少し、複雑ね……。 ……え? 私にございますか? 残念ながら私にはまだ、 妊娠の兆候がございません。 でも、まあ、遅かれ早かれ…… というところかと、思います。 私以上に加々美が、 お子を早う、 早う私に抱かせなさいと頑張るので、 かえって体が、 萎縮してしまうのかもしれませんわ……。             敬具 17××年 春 イサベル・デ・アラゴン・イ・シシリア・綾子 (洗礼名は、お上には内緒ですよ。ふふ……)
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