あなたと恋に落ちるまで

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「ふぅ……」 自然と溜め息が出る。今日は疲れる一日だった。 明日からどんな顔して会社に行ったらいいのだろう。頑張れるだろうか。椎名さんがそばにいてくれたら……。 部屋を見回すと服も物もキレイに整頓されていた。本棚には植物や資格関連の本が並び、テレビの横には小さな観葉鉢が置かれていた。これは椎名さんが育てているものなのかな。本当に植物が好きなんだな。 仕事が楽しいと言っていたし、3年前は迷っていたけれどアサカグリーンに入社して良かったじゃない。 本棚の本と本の間から紙の端が出ているのが見えた。一部分だけ見える印刷された内容に見覚えがあり、勝手に取るのは失礼だとは思いつつも私はその紙を引っ張った。 それはハローワークで検索した時に印刷される求人票だった。3年前椎名さんが落として私が拾ったアサカグリーンの求人票だ。 椎名さんは今もこの紙を捨てずに取っている。折り目がついてボロボロになっても。 本棚に求人票を丁寧に戻す。大事にしていることが嬉しいと思ってしまう。 「ん……」 ああ、すごく眠い……。椎名さんの部屋は椎名さんの匂いがいっぱいで安心する……。 「夏帆ちゃん?」 椎名さんの声がする。でも動けない……。 「……夏帆ちゃん、夏帆ちゃん」 「ん……」 「おはよう、朝だよ」 「え……あさ……朝?」 目を開けると目の前には椎名さんの顔がある。 「え……何で椎名さん?」 「寝ぼけてる?」 「えっと……」 意識がはっきりしてきた。知らない部屋、知らない布の感触。そしてかなりの至近距離に椎名さんがいる。 「何で椎名さんがいるんですか?」 「俺んちだからかな」 頭を上げて部屋を見回すと確かに椎名さんの部屋だ。
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