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「宇佐見さんはどうしてここに?」
「私が担当する取引先がこの通りの向こうにあるんですけど、新商品の売れ行きをチェックしに来てたんです」
「へー……」
宇佐見に対して俺は気のない返事を返す。俺の静かな昼休みをこの女のせいで潰されて腹が立っている。
牛丼が運ばれてきたので食べることに専念した。専念したかった。
「椎名さん、連絡先教えてください」
意に反してストレートに攻めてきた。
「ん」
俺は口に牛丼を入れたまま財布の中から名刺を出すと宇佐見に渡した。
「もう椎名さん、会社携帯は知ってますよ」
宇佐見は俺の名刺を裏返して見ると困ったように笑う。名刺の裏にプライベートの番号を仕込んでおくことなんてしない。
そもそも、こいつに社用の番号を教えた記憶もないのだ。いつの間にかそれを知っているあたり恐ろしい女だなと思う。誰かから聞いたのだろうか。
「プライベートのやつを教えてくださいよ」
「俺、彼女にしたい子にしか教えないんで」
宇佐見はムッとしたようだが俺は構わず味噌汁を飲んだ。
「じゃあ私、椎名さんの彼女になりたいです」
これまたストレートに言われた。
そこまで本気になってくれても、宇佐見の人柄を知っている俺には嬉しいとは思えない。
「宇佐見さんは横山さんと付き合っていたんですよね」
「え? 椎名さんまでご存じなんですか? 困ったな……」
宇佐見はわざとらしく困った顔を見せつける。自分から社内に触れ回っていると聞いているのに何が困るというのだろう。
「椎名さんは私の元カレが気になりますか?」
気にならねえよ。
上目使いに見られても俺には効き目はない。
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