あなたが恋に落ちるまで

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男慣れしてないところは相変わらずなんだな。 中田は分かりやす過ぎるほどに夏帆を狙っている。そんな夏帆本人は明らかに中田に困惑している。その様子に思わず笑いそうになる。 3年前の出来事は俺には大事な思い出だが、夏帆が覚えていないことは寂しかった。いや、俺の顔を覚えていないだけであの日のハローワークでのことは記憶にあるかもしれない。 話したい。伝えたい。君に励まされて今の俺があるんだと。 店を出てからも隣に座っていた女に捕まり、目を離すと夏帆はいなくなっていた。中田の姿も見えず、俺はすぐに連れ出せなかったことを後悔した。下半身に脳みそがあると言っても過言じゃない中田にかかれば恋愛下手な女はすぐにヤられてしまう。 まただ。3年前と同じように、手を伸ばした時にはもう遅いのだ。 俺は急いで追いかけた。中田に腕を掴まれ不安そうな顔をした夏帆はすぐに見つかった。 見た目がいくら変わっても、中身が地味女のまま全然変わっていないことを嬉しく思ってしまう。俺はもう既に末期だ。 今度は逃がさない。絶対に。 俺は北川夏帆へ腕を伸ばした。 あの日触れたいと願ったその小さくて強い肩へと。そうして優しく抱き締めて、中田から奪うことに成功した。 「俺は簡単に君をホテルに連れていけちゃうよ」 逃がすものかと掴んだ腕に少し力を込めた。俺のことを覚えていない夏帆を、ちょっとだけいじめたくなった。 「椎名さんとホテルなんて行かない!」 地味で暗い夏帆には似合わない突然の大声は、求人票を捨てるのを止めたあの日と同じで笑ってしまう。 本当に変わらないのな。必死な目で、顔を赤くして。思わず触れてしまいたくなるくらいに……。
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