あなたが恋に落ちるまで

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あの日と同じようにゆっくり顔を近づけた。 ほら、思った通り。メガネをはずした方が可愛い。 手に入れたい。さらさらした黒髪も、俯く瞳も、俺の心を揺さぶる唇も。 もし今キスをしたら、奥手な夏帆はそれがきっとファーストキスなんだろうな。 そんなことを思ったら、夏帆は警戒して顔を逸らしてしまった。 だからやめた。初めて真剣に付き合いたいと思った女なのだから。焦るとまた逃がしてしまう。 今度こそ、ゆっくりと、君に釣り合う男になった俺を見てくれよ。 「じゃあまたね夏帆ちゃん」 今度は3年待たなくたって、またすぐ会えるのだから。 夏帆と別れてすぐに幹事である友人に電話をかけた。 「洋輔? 今どこ?」 電話の向こうの声が聞き取りにくいほど大音量の音楽が聞こえた。 「ごめん、俺帰るわ」 「は? カラオケは?」 「ほんとごめん。悪いけど、ちょっと彼女さんに代わって」 「え? 何で?」 「聞きたいことがあるから」 「じゃあちょっと待って……」 「洋輔くん何?」 先程とは違って彼女の声がはっきり聞こえた。カラオケルームの外に出たのかもしれない。 「あのさ、夏帆ちゃんて古明橋の何ていう会社に勤めてるの?」 「夏帆ちゃん? 早峰フーズだよ」 「早峰……」 そんな大手に就職したのか。 早峰フーズはうちの会社が取引している中でも重要顧客だ。この偶然に感謝したい。 「そっか。ありがとう」 「洋輔くん夏帆ちゃんがやっぱり気になる?」 「さあ、どうでしょう」 なんて、本当は頭の中が夏帆のことでいっぱいだ。 「ふーん……。あのね、洋輔くんは今日の夏帆ちゃんしか知らないだろうけど、あの子は真面目な子なんだよ。頑張り屋で」
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