あなたが恋に落ちるまで

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だから私は退学した。バイトと奨学金で卒業まで通えなくはなかったけど、働きすぎの母の体調が心配だった。 将来の保証がない芸術系の学校に通うよりも、今自分が仕事に就いた方が残された家族が生活していけると思った。 母と交代で家事をこなし、毎朝妹のお弁当を作り笑顔で学校に送り出した。時間があればとにかくバイトに行き、生活を切り詰め、自分自身の見た目に気を遣う余裕なんてなかった。 その頃高校時代に部活が同じだった先輩に相談にのってもらっていた。当時はそこまで深い付き合いでもなかった先輩のお母さんが、偶然我が家の生命保険の担当者だったことから先輩まで親身になってくれた。 先輩や母の助言もあり、正社員を目指すことにした。バイトの合間に暇さえあれば求人サイトを見てハローワークに通った。けれど高卒で何の資格持っていないため、ほとんどの企業から履歴書を送り返されていた。 バイトを掛け持ちしながら半年近くそんな生活をして、妹の進学も決まった。私と違って将来性のある美容の専門学校に。 少しずつ良い方向に向かっている。そう思っていた時にダメ元で受けた大手企業に契約社員として採用されることが決まった。 入社してしばらくは必死だった。仕事を覚えるのに必死。人間関係に必死。生活するのに必死だった。お陰で母は掛け持ちのパートを辞めて1ヶ所に落ち着き、妹はエステサロンに就職が決まった。 株式会社早峰フーズが二十歳で高卒のフリーターを契約社員とはいえ採用するのは異例のことだ。私の面接をした専務と総務部長と私の前任者が採用を決めた。 入社して暫く他の部署の社員からもよく視線を向けられていたことは覚えている。それは社会人経験のない中途の新人が珍しいからだと思っていた。
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