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「え、っと。あ、まず病院に」
「ぃヤッ!!」
この彼女をそのまま置いて車に携帯電話を取りに行って良いものか、しかし見知らぬ男の車に誘うのも如何なものかと考えていた俺は、想定外なところで力強い抵抗に合って困惑せざるを得ない。
「え。いや、だって。怪我」
「いやっ!! ぃやぁぁああっ!!」
「わっ、ワカッ、わかったっ、から。落ち着いて」
お前が落ち着けと言われかねないどもりを披露するヘタレな俺を笑う人物は、ここにはいなかった。
唯一いるとすれば、俺だけだ。
そして彼女は、俺の尻込みを知ってか知らずか、病院ばかりか警察も嫌だ役所も嫌だ早くここから離れたいと訴え始め、俺の車に乗り込もうと必死に這いつくばって移動し始めた。
ここでようやく気がついた、という訳ではない。しかし今、状況に驚くばかりだった俺もようやく正面からそれを直視した。
彼女の傷は、目元だけではなかった。
唇も腫れて血が固まっており、耳は柔道選手のように潰れている。
髪の毛がザンバラなのも、まさか趣味ではないだろう。
首もとの歯形がくっきりと残っているその鬱血の周りにも、薄くなった歯形がいくつも見えた。
小指が不自然に外側に曲がっているのだって、「ドッチボールで突き指して放っておくと、こうなるよね~」などとあるあるで済ませられる状態ではない。
というか。
足、めちゃ引き摺ってるよね?
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