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そんな彼女にこの俺ができることがそう沢山あるわけもなく。
取り敢えず、と誰に言っているのか判らない前置きをして、俺は戸惑いながらも、彼女を自分の車に乗せてしまった。
行き先を、実家から下宿先辺りへとぼんやり変更する。
「今、隣の県に向かってますから」
返事を求めてふと見ると、彼女は、後部座席に横たわっていた。
ぎょっとして急停車する。
早過ぎず遅過ぎず一定のリズムで繰り返される呼吸を確認した俺は、泣きたい気持ちを全力使って抑え、大学の付属病院へと行き先を確定したのだった。
一時間ほど走らせてようやく到着した病院の駐車場で、車の外に出た俺は、ドアにもたれながら携帯を握った。
長い着信音を祈るように聞き続け、それが止まったときは心臓が止まるほどホッとした。
「カッツー、ごめん! 今、いいか?」
「良くねーよ、ばーかっ」
第一声から威勢良く口の悪いカッツーこと葛城(カツラギ)は、俺のサークル仲間で医大生だ。大学附属病院にも出入りしていて顔が利くようだったので、ヘタレ全開で寄りかかってやろうと、電話したのだ。
「頼むよ、ホント。かなりヤバイことに巻き込まれてさー」
「それに俺を巻き込むな。迷惑極まりねーな、お前」
「マジお願いします。話聞いて」
葛城は、口は悪いが面倒見が良く情に厚い。話し始めればこっちのものだと言わんばかりに俺は喋り捲った。
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