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ツー、ツー、という無情な不通音が、耳の穴の中でやたら反響する。
葛城のアドバイスが理解できない訳ではなかった。
納得も出来た。
しかしそれを実行するとなると、途端に踏み出せなくなる。
連絡しないでくれという嘆願に対して、俺は承諾してしまったのだ。それをこちらの都合で勝手に無効にしてしまうことが、どうにも後ろめたかった。
だからと言って、自分が犯罪者になるのは御免だ。
かと言って、俺の身の保障を目の前の脆弱すぎる女の子に背負わせる訳にもいかない。
彼女は、俺の車の中でまだ眠っていた。
この一時の安眠に縋り付くように、必至に目を瞑っているようにも見えて、胸が潰れそうだ。
この子は、なんでこんな状態になるまで我慢し続けたんだろう。
どんな束縛がそこにあったというんだろう。
考え始めたら、彼女が憐れでならなかった。
俺が助けねば、と、訳もなく力が湧いてくるようだった。
俺が新たに決意しているところに、携帯から呼び出し音が鳴る。
葛城か?と藁にもすがる気持ちで確認すると、着信の相手は涼香だった。
付き合って1ヶ月になる俺の彼女だ。
タイミングが悪すぎる。
気がつかなかった振りをして消音しようかという考えが一瞬脳裏を掠めた。
次の一瞬で、もう一度悩んで。
「はい」
電話に出た。
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