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「1つは、治療すること。もう1つは、君が怪我を負わされた証拠を手に入れること」
ここまで話しても、彼女の表情は動かなかった。
判っていたのか。逆に、未だピンと来ていないのか。
「君は」
つい口から溢れてしまったけれど、この続きは言い淀む。
『君は、こんなことした相手のところにまた帰りたい?』
そう尋ねるつもりだったのだけれど。
間が悪い、察しが悪い、頭が悪い、と悪いとこだらけの俺でも、さすがにこうなった元凶について怯えている最中の本人に言及するのが酷であることは判る。
何か言葉を替えて言えないものか、必死に頭を回転させた。
俺の身の潔白の為にも、この子の為にも、悪役は『暴力を振るう相手』であり、その敵と闘うために俺は協力しているのだということを明確にさせたい。
……と、考えて。
自分勝手な都合の良い思考にヘドが出た。
この子の為にもなんて如何にも付け足しだ。この子の為を考えれば、混乱を解しながらゆっくり解決した方が良い。急ぐ必要なんてないんだ。
……いや待て。そうか?
この怪我、本当に大丈夫なのか?
脳への影響とか、ないの?
「酷いこと、するよね。俺は悔しいよ。辛かったよね。頑張って逃げてきたね……」
言いながら、思わず泣けてきてしまった。
「君は、偉いよ。よく頑張ったね。ホントに頑張った」
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