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彼はやはり、言ってくれなかった。
大切に扱われ、自分が彼の特別であるという感覚は確かにあるのに。
それとこれは、別なのだろうか。
彼の中に、私の居場所は無いのかもしれない。
それでも。
私には、彼しかいなかった。
彼が私のヒーローであることは揺らがない軸であり、私の支えだった。
彼は、私の唯一だった。
私の父親は、小さな工場を経営していた。
最近テレビで見かけるような『世界が注目する、日本の誇る技術』といった、やる気のみなぎった工場では全くない。下請けの下請け的な位置にある、常に倒産危機に陥っているような零細工場だった。
しかも、父は数年前に工場に関わり始めたばかりの放蕩息子な二代目であり、社長とは名ばかりの実質営業担当。
工場の現状も歴史も今後の可能性すらも、把握しているのは祖父の右腕だった古株のベテラン社員であり、実権もおよそ彼にあると言える状態のようだった。
だから、仕方ないと思った。
祖父が痴呆を発症し施設に入って3ヶ月、短大2年目の春。
私は、父にお見合いの話を振られた。
相手は当然、仕事の関係者だった。
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