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私には、ある程度の覚悟ができていた。
それはそんな格好良いものではなく、単なる『諦め』だったのかもしれないけれど、何にせよ決意めいたものが私にあった。
大企業同士の政略結婚とは訳が違うことも、私なりに理解していた。
うちのような自転車操業の工場との提携に利があるような会社などないだろう。必然的に、『私が嫁ぐこと』自体が相手方の利なのだろうという結論に至った。
それを踏まえての決意だった。
公務員試験に落ちた為に短大へ通わせてもらっているという勝手な引け目が、私から拒否権を奪ったのかもしれない。
しかし私のそんな気負いは、肩透かしを食って終わった。
鬼か蛇かと警戒していた相手は、目付きこそあまり良くないものの、礼儀正しく一般的な男性だった。年齢も20代半ばとのことで、私の相手としては極めて常識的な範囲内だ。
ご両親についても何ら特徴的な要素はなかったが、問題は、常に大騒ぎしていた彼のお兄さんだった。
相手方の両親に発達障害だと説明され、続けて、親族には他に障害を持つ者はなく、遺伝ではないと強調された。
なるほど、ネックはこのお兄さんかと私は納得した。
私は、一般的な若い女性よりずっと障害者との接触機会が多かったと自負している。
うちの工場では発達障害の方を何人も雇っている。祖父の家に隣接していた工場に、私は小さな頃から度々顔を出しており、彼等とも顔見知り以上の関係だった。
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