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嫌われているのかと思えるほど消極的な態度のお姉さんや、近づいてはいけないと祖父から注意を受けたお兄さん(多分、子どもの突飛な言動に混乱してしまうタイプだったのだろう)達だったが、とても真面目に仕事をこなし、誠実に毎日を過ごしている印象だった。
小中学校への通学路の途中には、自分の家の飼い犬に「煩いっ!」「黙れっ!」といつも怒鳴り付け、事ある毎に吠えたり唸ったりしている男性もいた。
しかし彼もまた、通りすがりの私に害を与えるような存在ではなかった。
そして、祖父の紹介で始めた発達障害者支援センターでのバイトが、私にとって一番の経験値になった。
意思疏通が難しそうに見える人達とコミュニケーションを成立させていく日々は、想像以上に楽しく充実していた。
時に大声に驚かされたり、抱きつかれたり胸を揉まれたりとハプニングを重ねつつ、その対処法も少しずつ身に付いていき、私は僅かな自信をここでようやく手に入れた気になっていた。
しかし。
お兄さんは、私が見たどの人とも違い、どの人よりパワフルでアクティブで。
それ以上に、と言うか。
何より、とにかく、攻撃的だった。
「知らない場所だから、興奮しているの」
相手の母親が、お兄さんに殴られながらも何とか抑えつつ、抑えきれず、その騒動の中で懸命に言い訳を重ねていた。
『いつもはここまでではない』
『下の子は実家を出ている』
色々なセリフを聞きながら、しかしその全てが私の鼓膜を滑っていった。
相手の家族に対してまで興味を向けられるほどの熱意が、私にはなかった。
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