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遠くから聞こえてくる音にも敏感になり、麻里音はついつい音がする方に顔を向けてしまう。
遠くで作業をする音。どこかの扉がしまる音。そして、楽屋の衣装部屋からの物音。
麻里音はとっさに立ち上がり、楽屋の隅によって壁を背にした。
「だ、誰?」
その物音は確かに楽屋の中から聞こえた。楽屋には衣装用に小さく遮られた部屋がある。物音はそこから聞こえたのだ。
麻里音の頭をマネージャーの言葉がよぎる。もし、刃物を持った犯人がこの楽屋にいたら。
衣装部屋は楽屋入口の横にあり、今から逃げることは出来ない。
麻里音は机に果物と一緒に置かれていた果物ナイフを取った。震える手でナイフをかまえる。
いざとなったらこれで反撃するつもりだった。
衣装部屋の扉がゆっくりと開く。誰かが楽屋の中にいるのは確定的となった。
麻里音は震える手に力を込める。扉の影から誰かが出てきた。眼鏡のない麻里音には判然つかなかったが、黒い服を着た大柄な人間だということはわかった。
「誰なの?」
相手は何も答えない。なのに、ゆっくりと麻里音に近寄ってくる。
「誰なのよ!」
無言で近寄る相手に麻里音の恐怖は頂点に達した。
「嫌あああぁぁぁ」
持っていたナイフを立てて相手に突進した。相手は予想をしていなかったのか、後ずさるだけで反撃してこない。
相手に身体ごとぶつかった。
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