8人が本棚に入れています
本棚に追加
麻里音の手に嫌な感触が伝わる。
「誰か……。誰か助けてくれ……」
相手が呟いた。それを聞いて麻里音は慌てて部屋の中心まで離れる。
声は低く、男の声だった。
男は楽屋の扉を背にくずおれる。
震える身体を押さえようと、麻里音は自分の身体を抱き締めた。
そこに、扉を叩く音が楽屋に響く。
「麻里音!」
マネージャーの声が扉の外から聞こえた。楽屋の扉を叩いているのはマネージャーのようだ。
麻里音はマネージャーの声に安堵した。足から力が抜け、その場に座りこむ。
「マ、マネージャー……」
「麻里音! 開けろ! 麻里音!」
男の身体が邪魔をして楽屋の扉が開かないようだ。へこたれそうな気持ちを抑え、楽屋の扉の方へ手を伸ばす。しかし、麻里音はすぐに手を引っ込めた。
マネージャーの様子がおかしい。
マネージャーは麻里音を助ける為に来てくれたと麻里音は思っていた。だが、楽屋の中で今起きたことをマネージャーが知るはずがないのだ。なのに、マネージャーはせっぱ詰まったような声で楽屋の扉を叩き続けている。
麻里音は嫌な予感がした。
震える足で立ち上がり、麻里音は自分がナイフを刺した男に近付く。眼鏡をしていないせいで、ぐっと近寄らないと男の顔が判別出来ない。麻里音は思いきって男の顔に自分の顔を寄せた。
最初のコメントを投稿しよう!