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「で?」
すでに三十分は経った。
それなのに眼の前のオトコは、一向に自分を解放しようとはしない。
それどころか、どんどん口調が荒くなっていくような気がする。
これだから短気はいけない。
「葉、いい加減に吐けよ」
「・・・・」
そう、遡ること三十分ほど前。
いつもの如くゲームをしていたとき、突然、真吾があることをいいだした。
――――次の勝負で負けたほうが勝者のいうことをきくこと――――
やれば七~八割方勝てるゲームだったから、軽々しく受けてしまったのが甘かった。
いつもならすんなり負けるクセに、こういうときになぜか普段出せない力を発揮するヤツ。
いるんだよ、そういうわけのわからないヤツが。
こいつがそういうオトコだってことをすっかり忘れていたおかげで、見事に惨敗。
いうことをきく、っていったって、宿題をやれとか、お菓子を買ってこいとか、そういう類のものだと思っていた自分は、真吾のいい出したことに、一瞬耳を疑った。
「なあ、いいだろうべつに。好きな子の名前いうだけじゃん。さっさといえよ」
一向に口にしない自分に苛立っているらしい。
だって・・・・いえるわけがない。
そりゃ名前をいうだけなら簡単だ。
けれど、自分はその一言をいえずにいる。
いえるわけがない。
自分が好きなのは、真吾なのだから。
ずっと側にいて、これからも側にいたいと思っている。
でもそれは幼なじみとして、だ。
もっと他の欲求がないわけじゃないけれど、この関係が壊れるよりはマシだ。
自分のこの気持ちによって、真吾が離れていってしまうことを考えると、大事なのは現状維持。
それだけを考えていままで隠してきたというのに・・・・。
あの子がかわいいとか、ああいう子を彼女にしたいとか、そういう話をしないわけじゃない。
けど、いつまでたっても実行に移さない自分を不審に思ったのだろう。
幼なじみなだけに、そういうところはさすがに鼻が利く。
けど。
いくら問い詰められたとしても、これだけはいえない。
いえることはいうけれど、いえないこともあるんだよ。
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