第一章 出逢い心燃ゆる時眼を開きし者現る

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独人124年─── その日、URARA軍基地内はいつもと違い騒々しくあった。 設楽(シタラ)の眼の前を他の隊員が慌ただしく走っていた。 「おい、何かあったのか?」 設楽は眼の前を過ぎようとしていた一人の隊員を呼び止めた。 「知らないのか?遂に捉えたらしいんだよ。他国の工作員を…」 福井国において工作員とは配備されている独立治安維持部隊の総評であるが、治安維持部隊とは名ばかりであり、独裁政権を維持する為のオリジナルの軍隊だった。工作員は国の統治下に置かれている為、自国を奪還しようとしている反国民で組織された設楽達レジスタンスとは相対するものだ。 「何?他国の?自国ならまだしも他国なんて聞いたことがないぞ!」 「それが本当らしいんだ。俺だって他国民なんて見たこともないよ。何でもスパイとして紛れていたようだが、福井国の工作員にやられたらしく、川岸で怪我をしている所を見つけたらしいんだ。」 ふと窓の外に眼をやると山の向こうは空高くそびえ立った不気味なたたずまいの鎖国壁(さこくへき)が自国全体を取り囲んでいた。 鎖国壁は日本国という国が崩壊した際、治安維持の為、各国主導の下設置されたと国民は知らされているが、設楽達レジスタンスで生まれた人間には独裁政権を維持するための強固壁で、他国との関わりを断じている言わば国民を家畜のように扱う為の物だと教えられていた。URARA軍は鎖国壁を崩壊させ、まだ見ぬ他国と接触することも悲願としているが、自国の工作員を倒し福井国に平穏をもたらすことを主目的としている。 「そいつは今どこにいるんだ?」 設楽が尋ねたと同時に館内全域に非常サイレンが鳴り響いた。 (総員につぐ、特認戦闘配備。繰り返す、特認戦闘配備。主格戦闘員は至急指令室まで・・・) 「何?特認?まさかこんな時に・・」 特認とは自国の工作員、つまり福井国がURARA軍に対して攻撃を仕掛けてきた際に発令されるものであり、URARA軍総本部であるこの基地が福井国に知られた事も意味していた。 「緊急事態か…やはりあいつが関係しているんだ。」 そういうと隊員は武器庫の方へと走り去っていった。
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