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伊織のこと
「伊織ぃぃぃ~っ!!
起きてよぉ~っっ!
今何時だと思ってンのっ!?
ご飯冷めちゃうよぅ!」
「‥‥イラネ‥‥zzz..」
「もーっっ!!
またYシャツのまんま‥‥
スーツもグチャグチャだし…
学会明けは、いっつもこーなんだからっ!
サッサとシャワー浴びて!!
下着とタオル、ココ置いとくよっ!!
‥ッタク‥世話が焼けるナァ‥‥‥
とっととお嫁さん貰えっ!!!」
「!?!ンあ゛?!
‥あで?あれ?アレレ!?!
いいの?イイの!?!!
ボクがお婿に行っちゃって~‥いっちばん悲しむのはドコの凛ちゃん~‥?
ンンンンン~‥凛~ン♪
お目覚めのチュゥゥゥゥゥ‥」
「ゥガーッ!
止めろーっ!!バカバカッ!!
朝っぱらからフザケんなっ!変態!!
ボケーッッッ!!!」
毎朝こぉ~んな感じ…
あの爽やかで頼りがいのある綺麗な伊織は何処へいっちゃったんだろ‥?
‥‥‥、
腰まで伸び放題のロン毛に無精髭、脛毛ボーボー‥おまけに猫背。
いつでもドコでも無印良品のロンTに白衣を纏って、アイボリーのチノパンかハーフパンツでペタンコの雪駄履き。
無頼というのか、バンカラとゆーか‥‥
腕っぷしは強いが、普段はヨレヨレで冴えないアラサーの大男…。
頭脳明晰天才生物学者と謳われる伊織は、この幼気な14歳の少年を、
まるで家政婦かお母ちゃん扱いなんだ。
せめて恋女房くらいに思ってくれるなら…、
僕にだって、伊織を優しいチューで起こすくらいの準備はあるよ…。
今はこんなムサい男だけど、
なんたって伊織は僕の初恋、
最愛の人だもの…
ずっと伊織だけを見てきた‥‥。
そしてその恋は今も継続中。
どこまでも不毛な僕の恋路‥‥。
進展もなければ後退もない‥ただの従兄弟同士…
だって、伊織はパパに夢中だもんねっ!
伊織はパパの後を追って同じ研究者の道へ進み、パパの研究室に勤めている。
お祖父様とパパが対立すると、伊織は必ずパパの肩をもって、
以前はあんなに尊敬していたお祖父様だって上手く説き伏せちゃうんだ。
お祖父様は自分の理想を超えて逞しいおっさんになった伊織にてんで甘々…勝負にならない。
まぁ、僕だって…
伊織のお陰でお祖父様の干渉を直接受けずに済んだ訳だけど…。
この男所帯では、いつの間にやら忙しい男達の面倒を“この僕”がみているわけで、日々せっせと主婦働きに余念がない。
伊織の変わりように比べ、
僕のパパはあと数年で還暦だっていうのに、白髪がちょっぴり多くなったくらいで、ちっとも代わり映えしない。
仲良く大学に出掛けていくふたりが、僕は憎らしいくらい羨ましかった。
お祖父様も80を過ぎて尚、相変わらず精力的にあちこち飛び回っている。
お祖父様の離れから怒鳴り声が聞こえない日はほっとするけど、それも長く続くと、なんとなく間の抜けた我が家なのだ。
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