伊織のこと

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伊織の長い亜麻色の髪がダイニングのドアの向こうに消えた。 車は騒がしくガレージを出て行く…。 それから僕は溜め息をつき、キッチンの洗い物もほったらかしで自室に閉じこもる。 僕は伊織にだけは、我が侭な自分をさらけ出してしまう。 解ってるよ… 僕が甘ったれだってことくらい‥‥ 伊織を困らせてやりたいんだ…。 昔みたいに、もっと僕のこと構って欲しいから。 でも、大人にならなきゃ…。 しっかり勉強して伊織に追いつかなきゃ! 僕もパパのように伊織と肩を並べて研究室に出勤するんだ。 そうすれば一日中伊織の側にいられる。 ‥‥だけど、天才肌の伊織に凡人の僕が追い付けるものか‥‥‥ 気持ちばかりが焦る‥モヤる‥‥疼く‥ チクチク‥ザワザワ‥胸の奥で何かが蠢いてる‥‥。 そんなこんなで、ここンとこの僕は酷く情緒不安定なのだ。 訳もなくムッとしたり、一寸したことで不安になったり機嫌良くなったり、 こうしてドンヨリ落ち込んだり…。 この焦れったい‥もどかしい心と身体‥そしてグシャグシャの頭ン中‥‥。 僕は独り寝に慣れない…。 ふと、胸が張り裂けそうな寂しさに苛まれ、涙が零れる。 あの頃みたいに、伊織に抱きしめて貰わなけりゃ、僕の体は弾け飛んでしまいそうだ! いつの頃からか僕のベッドの隣から伊織がいなくなり、僕の部屋のセミダブルのベッドは広すぎると感じるようになった‥ チビだった頃は、 眠りにつくにも目覚める時も、 いつだって伊織の腕枕の中だったのに‥。 身体の奥で、鈍色のどろどろとしたものが、何かと交じり合いたいと容積を増して溢れだしそう‥‥‥‥ぁあ‥うるさいっ!! 伊織‥ …伊‥織‥‥ 僕は、iPhoneに隠した伊織のとっておきのショットを眺めて甘い妄想にたゆたう。 留守電を何度も再生し、右手は僕のイケナイ場所を包み込む。 伊織の優しい声が‥ 青い瞳と棚引く亜麻色の髪が、 波動となって、 僕の指先の動きに連動し…一定のリズムで慰め始めるんだ。 こっそり枕元に隠している伊織の白衣に袖を通し、顔を埋めて伊織の名前を呼ぶ。 すると伊織(まぼろし)は優しく僕の雄を握り絞め、にわかに動きを早めた。 コイツが本当は僕の右手なんかじゃなく、誰を恋しがっているか、 誰と溶け合って果てたいかなんて‥判りきってる…。 僕のファンタジーの主人公は、 太陽神アポロンの勇姿さながらの伊織。 彼は猛々しく天空を争覇し‥ 僕は…束の間のトランスに酔う‥‥。 吐き出された生温かな夢の残骸の滑り… ‥‥‥‥‥‥‥‥虚無感… 余りにも惨めで、 どうしようもなくやるせなくて、 ベッドに伏して 一頻り泣いた…。 僕は不自由だ‥伊織‥。 だって、 こんな僕の狂った姿‥‥本当の凜… ‥絶対に アナタに知られてはならない          知って欲しい・・・・
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