豪徳寺家の人々

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元禄初頭より、山林事業に於いて一時代を築き、名を馳せた旧家・豪徳寺家。 十三代目の当主である豪徳寺 曙は、その由緒正しい名家に恥じぬ、豪放磊落な男であった。 ただ、伝統や仕来たりを重んじるあまり、旧態依然とした男らしさや女らしさを尊んだ。 その嫡男“豪徳寺 (さとる)”は、 生来謙虚で物静かな気質の生物学者。 父親に反して、社会的地位や家の格式には、まるで関心を示さない。 数あった縁談にも耳を貸さず、学問と研究に没頭することだけが至福であった。 そんな暁にも、遅い春が訪れ、 四十路にして、清楚な子女との穏やかな愛を育み、婚姻に至った。 やがて待望の第一子“(りん)”を授かるも、病弱だった愛妻は程なく他界。 妻が残してくれた一粒種を他人任せにしたくはないと、 暁は男手一つ、仕事と育児に奔走した。 しかし、繊細且つ重責を担った研究を抱えての育児は暁の体調を脅かし、最早限界を禁じ得なかった。 「お前が陽子の息子か…。 酷い髪の色だ…眼も蒼い‥‥我が一族に異国の血が混じるとは‥‥‥フゥ‥ 伊織といったな…飛び級で大学に合格したそうだが‥‥‥ ふむ‥跳ねっ返りの陽子に似て、なかなか気骨はあるようだ。」 娘に厳しく当たりながらも、 初めて対面する孫の伊織に愛娘の面影を重ね、やはり愛おしさは否めない。 伊織の言葉の端々から娘の気丈な健在振りを確認し、遠い異国の地で娘が如何に奮闘努力を重ねたかを思うと、厳格な曙の胸にも熱いものが込み上げてくるのであった。 「父さん、伊織君にプレッシャーを与えないで下さいよ。 伊織君…凜の遊び相手でいいんですよ。 あまり気負わないで、楽に楽に‥(笑) 本当に、よく来てくれましたね。 ありがとう。 もし君さえ良ければ、うちの大学に編入できるよう手配しておきますが‥」 「それはとても嬉しいっ! ありがとうございます、叔父上! ホントいうと‥勉強のこと、少し心配だったんです。母の為にも卒業は遅らせたくなかったから…。 叔父上、凛君のことは僕に任せて、思い切り研究に打ち込んで下さい! 僕、独りっ子だから凄くワクワクしてるんです、ずっと兄弟が欲しかったんだ! お祖父様、叔父上、 ふつつか者ですが、どうか宜しくお願い致しますっ!」 「こちらこそ、宜しく頼みます(笑) …陽子は本当に良い子を育てた‥‥。 頼もしいね。 …亡き妻も‥きっと喜んでくれていることでしょう‥‥」
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