第一章 「うつ病の臨床心理士」

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 そんな、私も母親と同じ歳になってうつ病を発症した。薬が必需品になったり、なかなか寝付けなかったり、私の日常生活はガラリと変わった。母親もこんな辛い生活を送っていたのかと思うと涙が止まらない。私は泣き疲れ、仕事場の仮眠室で寝ていた。  ゆっくりと目を開け、自分が寝ていたことに気づく。慌てて目の前にあるスマホを取り、時刻を確認する。時刻は昼の12時を回っていた。12時半から仕事の予定があるため急いで身支度を整える。  私がうつ病になってから、部分的な記憶を思い出すことが出来なくなっていた。母親が亡くなってしまったという悲しい記憶はあるが、母親との楽しい思い出は全く思い出せない。うつ病になったという事実は知っているが、うつ病になった経緯や原因は覚えていない。 たまに、自分自身が本当に篠田麗(シノダ・レイ)なのかと疑うってしまう時もある。  これら全てがうつ病のせいでなっていると考えれば、納得できないことはないが、少し違和感があった。  カバンの中にあるうつ病の薬を取り出し、それを口にいれ、水と一緒に流し込む。この薬を飲んだ時に私は仕事のスイッチが入る。 「……よしっ」 その時、仮眠室のドアが開けられる。 「あれ、麗まだ仮眠室にいたの? 木村さんがもう来てたよ」 ドアを開け、顔を覗かせたのは同僚の美山理恵子(ミヤマ・リエコ)だ。彼女とは同い年ともあって仲も良く、何かと互いに助け合っている。 「あ、ごめん。少し寝すぎてしまって、今すぐ行く」 「はいよ!」 彼女は私と違って、明るい性格で誰からにも信頼されるような人柄だった。一方、私は昔から根暗で何事にも消極的だったけど、人と話すことだけは好きだった。だから、今の職場を選んだのかもしれない。
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