第一章 「うつ病の臨床心理士」

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「麗?」 彼女の声に思わずビクッと反応する。 「どうしたの? 顔色すごく悪いよ」 私の顔を心配そうに覗き込んでくる。 「だ、大丈夫。今日は私木村さんだけだったからもう帰るね」 「……そう。ゆっくり休みなよ」 私は小さく頷き、カウンセリング室をあとにした。  自宅に戻り、静かな空間がなるべくできないように音楽をかける。それから、ベットに向かって一直線に歩き、倒れこむ。  何もかもがしたくないという感覚から、なかなか片付けることができず、ベットの周り以外は散らかっていた。  家に独りでいると、どうしようもない虚無感に襲われる。だから、家で過ごしているときはネガティブな思考になりがちだ。 なぜ、同じように私も色々と悩んでいるのに、見ず知らずの他人の悩みを聞かなくてはならないのか。 面白くもおかしくもないのに人はなぜ笑顔を振りまくのか。 こんな社会で生きていて何が楽しいのだ。 息苦しいだけじゃないか。 人間なんて……。 こんなことばかり思うなんて、私は人間として欠陥品なのかもしれない。
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