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背中越しに、早乙女の隣の席の女子が「良かったね」少しの間を置いて「うん」小さく弾んだ早乙女の声も。
全然良くないんだよ! おれは心の中で低く呟いた。
おれと、ぎくしゃくしていたことも”女友達”に教えてたのか!?
ホームルームが終わると、早乙女の方から、おれの席へ近づいて来た。微笑んでいるような表情。それにも腹が立った。鈍い奴だ!
三年生の階を通り過ぎて屋上の扉の前まで、一言も喋らずに歩いた。早乙女は弾むような足取りで、これから楽しい時間が待っているような顔で、おれの側にぴったりと。
屋上は鍵がかかり開放されていない。扉の手前の小さな踊り場で、おれと早乙女は対峙した。先に口を開いたのは早乙女だった。
「なんだか久しぶりだよねー。二人で話するのー?」
「だよなっ!」
おれたちはずっと喧嘩をしていたもんな、と付け加えたいくらいだ。
「で? なに~?」
おれが声を荒げてるのに、照れ隠しだと勘違いしたのか、早乙女は楽しそうな顔を崩さない。
「あのさぁーっ! 昨日! お前は、おれのこと引っぱたいたよなっ?」
さっと真顔に戻り、奴はこう言った。
「あっ! それは…ごめん。──後で考えたら投げつけたのもサブバッグの上だったし、力の加減もしてたし…。もっとしっかりと見てれば良かったんだけど…ごめん。それは、本当に…」
「いや、いいんだー。”そのことは” ──でも」
「でもぉ?」
「ほんっと、早乙女は今、モテてモテて困ってるでしょう? 羨ましい限りだわー。おれ~」
もちろん皮肉だ。
「そ、そんなことないよぉー」
おれの皮肉にも真面目に答える早乙女。その鈍さにもムカムカして来た。
「ほんっと、お前は”女にもモテて” 顔も引っぱたいたり出来て、自分の思い通りに何でも運べて、楽しくてしょうがないんじゃない? ”今”」
鈍い早乙女でも、おれが皮肉を言ってることに気づいたようで、一瞬「はっ?」という顔をし、また温和な顔に戻りこう言った。
「あれは違うから~。そういうんじゃないし。義理だからー」
「だから! そんなこと言ってんじゃねーよ! 一人ずつ、へずってクラスに渡した義理チョコで出来た”本命チョコ”の味ってどんなのー? 旨そうだよなぁー」
おれは卑屈に笑い、早乙女は顔を引きつらせた。
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