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「でもね。あの子たちも部活の合間を縫って手伝ってくれたんだよ? 上級生の、それもクラブとは関係ない ”義理チョコ” 作りを、みんな手伝ってくれたのに、その言い方はなくない?」
(義理チョコ…)
後輩には特別大甘な早乙女。
だから、あの時、おれを引っぱたいたんだ。きっと。
その家庭科部からのクラスチョコは、下級生たちから早乙女へ”本命チョコ”を渡す口実にされたのだとは、こいつは思わなかったのか? どこまでも鈍い奴だ
先輩のクラスチョコ作りのお手伝い。なんて口実で、どうせ上手く乗せられたんだよ。
おれたちはマヌケな協力者。クラスの男子たちはそんなことも知らずに純粋に喜んでいた。
気づいたら、おれは、胸あたりを突き飛ばしていた。
早乙女は勢い余って階段からよろけ、落ちそうになった。
「いや、ごめ…っ。くそっ!」
思わず謝りそうになってしまった。すると、
「へぇー。そうなんだー?」
その物言いにまたムカッと来た。
「そうだよ? ああ、そうだよなー。『誰か助けて~?』ほら言えよ。鈴木くんに階段から突き落とされるぅ~。モテる早乙女センパイが、ひがみセンパイから突き落とされる~っ。助けて~っ、てな!」
早乙女は口に手を当て、目を見開いていた。
涙を溜めていたかもしれない……それでもおれは続けた。
「誰かに助けて欲しいんだったよな? なっ! 言ってたよな?」
早乙女が言った声真似をし「誰か助けて!」を繰り返し強調した。
その時、階段の下で三年生男子が、おれたちのことを覗きに来た。早乙女の顔を見て「えっ?」という顔になり、
「”彼女”を泣かしたらダメだよ~」
はぁ! 彼女? その”わざとらしい”言い回しにカチンと来て上級生を睨んだら、迷った挙句また引き返して行った。
早乙女に視線を戻すと、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「くそっ!」
(もぉ、なんなんだよ! これ)
その時、早乙女が感情を爆発させた。
こんな顔、初めて見たかもしれない。
「どうしたいわけ~? ねっ、何がそんな気に食わないの?」
「別に~! お前が困ってるんなら、おれが助けてやるよ。それで良いんだよな? 助けてーっ、ってくらいモテるもんな。お・ま・え!」
悪い方へ、悪いほうへ、おれ自身が持って行っている。
なのに、止らない。
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