あいつと喧嘩した理由

12/17
前へ
/17ページ
次へ
「でもね。あの子たちも部活の合間を縫って手伝ってくれたんだよ? 上級生の、それもクラブとは関係ない ”義理チョコ” 作りを、みんな手伝ってくれたのに、その言い方はなくない?」 (義理チョコ…)  後輩には特別大甘な早乙女。  だから、あの時、おれを引っぱたいたんだ。きっと。  その家庭科部からのクラスチョコは、下級生たちから早乙女へ”本命チョコ”を渡す口実にされたのだとは、こいつは思わなかったのか? どこまでも鈍い奴だ  先輩のクラスチョコ作りのお手伝い。なんて口実で、どうせ上手く乗せられたんだよ。  おれたちはマヌケな協力者。クラスの男子たちはそんなことも知らずに純粋に喜んでいた。  気づいたら、おれは、胸あたりを突き飛ばしていた。  早乙女は勢い余って階段からよろけ、落ちそうになった。 「いや、ごめ…っ。くそっ!」  思わず謝りそうになってしまった。すると、 「へぇー。そうなんだー?」  その物言いにまたムカッと来た。 「そうだよ? ああ、そうだよなー。『誰か助けて~?』ほら言えよ。鈴木くんに階段から突き落とされるぅ~。モテる早乙女センパイが、ひがみセンパイから突き落とされる~っ。助けて~っ、てな!」  早乙女は口に手を当て、目を見開いていた。  涙を溜めていたかもしれない……それでもおれは続けた。 「誰かに助けて欲しいんだったよな? なっ! 言ってたよな?」  早乙女が言った声真似をし「誰か助けて!」を繰り返し強調した。  その時、階段の下で三年生男子が、おれたちのことを覗きに来た。早乙女の顔を見て「えっ?」という顔になり、 「”彼女”を泣かしたらダメだよ~」  はぁ! 彼女? その”わざとらしい”言い回しにカチンと来て上級生を睨んだら、迷った挙句また引き返して行った。  早乙女に視線を戻すと、今にも泣き出しそうな顔をしていた。 「くそっ!」 (もぉ、なんなんだよ! これ)  その時、早乙女が感情を爆発させた。  こんな顔、初めて見たかもしれない。 「どうしたいわけ~? ねっ、何がそんな気に食わないの?」 「別に~! お前が困ってるんなら、おれが助けてやるよ。それで良いんだよな? 助けてーっ、ってくらいモテるもんな。お・ま・え!」  悪い方へ、悪いほうへ、おれ自身が持って行っている。  なのに、止らない。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加