あいつと喧嘩した理由

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 翌日、バレンタインデーから二日後。  早乙女は珍しくまだ登校して来ていなかった。  教室に入ろうとして、ドアの前で目が留まった。  下級生が、誰かに声をかけたそうに立っていた。おれはいいことを思いついた。 「どうしたの? もしかして早乙女? 家庭科部の子?」  最初は戸惑った顔。それが早乙女の名前を出した途端、急ぐような口調で、風邪で学校を休んでいたことを説明し、包みを渡して欲しいとおれに言った。 「あーっ。抜けがけされたの、今日知ったんだ?」  なぜその話を? そんな顔だ。おれは真に迫った顔で、早乙女の”説明”を始めた。 「あいつ、困ってるんだよねー。ほんっと、そういうの」  顔色が変った。 「なにが困ってるんですか…?」  そして難しい顔になった。 「だから、そういうの。ハッキリ言っておくとさー。おれは幼馴染みで付き合い長いから何でも知ってるんだよ。あいつはね──”男が好き”なんだよ。分かる? その意味?」  冗談ですよね? 不安げな表情を浮かべていた。おれが更に真に迫った口調で幼馴染みを強調すると、悲しそうな顔に変わった。「男好き」という言葉がショックだったらしい。 「それじゃあ! せんぱ…」と言って名札を見て「鈴木さんのことを、早乙女先輩は好きなんですか?」  このタイミングだ! 「そうだよ。あいつは、ずーっとおれとつるんでたんだ。知らなかった? ごめんなー。あいつ、おれのことが好きなんだよ」  恥ずかしげもなく、おれはハッキリとそう言った。  その時、予鈴が鳴った。 「これ、お願いします…」  そう言い、包みをおれに押し付けて、走り去って行った。 「…って。…結局渡すのかよ」  普通渡すかよ。おれに? 早乙女先輩が好きな男子、のはずなんだけど……。  ほんっと、ちゃっかりしてるよ。女は。
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