5人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日、バレンタインデーから二日後。
早乙女は珍しくまだ登校して来ていなかった。
教室に入ろうとして、ドアの前で目が留まった。
下級生が、誰かに声をかけたそうに立っていた。おれはいいことを思いついた。
「どうしたの? もしかして早乙女? 家庭科部の子?」
最初は戸惑った顔。それが早乙女の名前を出した途端、急ぐような口調で、風邪で学校を休んでいたことを説明し、包みを渡して欲しいとおれに言った。
「あーっ。抜けがけされたの、今日知ったんだ?」
なぜその話を? そんな顔だ。おれは真に迫った顔で、早乙女の”説明”を始めた。
「あいつ、困ってるんだよねー。ほんっと、そういうの」
顔色が変った。
「なにが困ってるんですか…?」
そして難しい顔になった。
「だから、そういうの。ハッキリ言っておくとさー。おれは幼馴染みで付き合い長いから何でも知ってるんだよ。あいつはね──”男が好き”なんだよ。分かる? その意味?」
冗談ですよね? 不安げな表情を浮かべていた。おれが更に真に迫った口調で幼馴染みを強調すると、悲しそうな顔に変わった。「男好き」という言葉がショックだったらしい。
「それじゃあ! せんぱ…」と言って名札を見て「鈴木さんのことを、早乙女先輩は好きなんですか?」
このタイミングだ!
「そうだよ。あいつは、ずーっとおれとつるんでたんだ。知らなかった? ごめんなー。あいつ、おれのことが好きなんだよ」
恥ずかしげもなく、おれはハッキリとそう言った。
その時、予鈴が鳴った。
「これ、お願いします…」
そう言い、包みをおれに押し付けて、走り去って行った。
「…って。…結局渡すのかよ」
普通渡すかよ。おれに? 早乙女先輩が好きな男子、のはずなんだけど……。
ほんっと、ちゃっかりしてるよ。女は。
最初のコメントを投稿しよう!