あいつと喧嘩した理由

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 悠はおれの <親友だった> はず。  それがどうして今、こうなってしまったんだろう…。  悠は少しだけ斜めを向いて、ただ黙って立っている。まるで耳を傾け、おれの次の言葉を待っているかのように。 「お前は…」  おれが声のトーンを落とすと、悠の相槌も優しくなった。 「うん…」  俯いて顎を引き、床を眺めている悠。 「だって…お前。友チョコは、おれだけ…って、言ってなかった?」  言ってしまった…。  それは、おれの中だけの問題だ。  悠の乾いた唇が小さく音をたて開き、改めて一呼吸を入れてから、柔らかく優しい声でこう言った。 「だから…。玲の机に…入れたんだよ?」  悠は一つ、言葉が足りなくて、 「なにがぁーっ?」  おれは一つ、聞くことが足りない。 「本命…の、チョコ」  机の中のチョコは、確かに他の奴らとは違った。  おれは、悠の口から、ずっと、その言葉が欲しかった。いつも、この気持ちに気づかない振りをしながら……。  結局おれは、また悠の優しさに助けられ、甘えていた。  校庭で、鉄棒を握り、笑い合ったあの日のように──。 「あのさぁ悠…。義理でも…。もう他の奴(男子)なんかに……とか、言えるのかな? おれ」  悠だって知ってたはず。 「言えるよ…まだ」  悠はコクリと頷いて見せた。おれはその横顔をただジッと見つめている。 「そっか…。女子からも貰うなよ…な? …とか、言えると思う?」 「うん。言えると思う。だって玲が…」 「そうだよな…下級生たちには、悪かったかな…」  考えてみると、ずっとおれは、悠を中心に、中学二年間を過ごしてきた。  その間、みっともないくらい卑屈だった。 「んーん。悠がハッキリさせてなかったから…。説明するよ。”わたし”からも」  やっと悠が、おれを見てくれた。  床に落としていた視線を上げて、おれの方へ向き直り、微笑んだ悠は。  やっぱり、可愛かった。  ……なんてことを、おれが言ったら、やっぱり可笑しいかな?  ──あいつと喧嘩した”本当の”理由──
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