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おれが早乙女と喧嘩した理由は簡単だ。あいつがあまりに調子良いことばかり言ってたから、それなら、おれが代わりになんとかしてやろうか? と思っただけだ。
そして、実際に、なんとかしてやったんだ。それなのに──。どうしてこんなことになったのか。
あいつとは幼馴染みで、保育園の頃からの仲だった。
小学校へ上ってからも、ずっと、おれはあいつの率直なところが好きだったし、あいつもおれのことを、何でも話せる唯一の友達だと言ってくれていた。
家も近く、登下校も、放課後も一緒。夏休みは毎日遊んでいた。
親同士が同じママさんバレーチームに入っていたので、付いて行って、よく一緒に体育館でバレーの真似事をやっていた。いつも一緒に居たんだ。
それが卒業を境に様子が変ってきた。
中学では同じクラスにはなれなかった。それでも一緒に登校し、下校も先に授業が終わった方がホームルームを待って一緒に帰った。
「ごめん。今日は女子に、メレンゲ作るの手伝って、って言われてて、教えることになってるんだぁ。だから先、帰ってて良いから~」
最初に違和感を覚えたのはその時だった。
早乙女はなんと! 家庭科部なんかに入りやがった。
前々からそういうところがあった。でも、まさか……。おれと一緒にバレー部へ入るとばかり思ってたのに──。
入学して二週間。あいつから言われるのを待っていた。一緒に入ろうバレー部へ──と。仮入部の期間が過ぎた頃、家庭科部に入ったことを知った。
「あー、そうかよっ!」
「なに怒ってるの~?」
「なんだよっ、そのナヨっとした喋り方!」
あいつはもう、以前のあいつじゃなくなってきていた。
言葉使いは女みたいになり、クラブは家庭科部。休み時間も女子とばかり喋るようになっていた。
結局、おれはバレー部。あいつは家庭科部。クラスも違うし帰る時間も合わない。そのうち部活の無い日でも、おれは待つこともしなくなった。
「ねぇ、久しぶりに一緒に帰ろっ。今日部活ないし」
ある日、教室のドアを開けたら、早乙女が待っていた。
「さおと──」
「鈴木~っ。今日、俺ん家に来ないか? 例のブツ。すっごいぞーー!」
おれの言葉は石田の声に掻き消された。今日、兄貴が居ないから一緒に観ようぜ。前からそんな話はしていた。
「友達と…。そっかー、じゃ、先に帰るね。バイバイー」
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