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このまま、そっとしておこうと思ってたのに。
また、おれは心の中をかき乱されることになった。
早乙女と。
同じクラスになってしまった。
初日からお互いに意識は向け合っていた。ただ視線だけは合わせなかった。
翌日、体育の教室移動で一瞬目が合った。あいつがおれを見ていた。でも、おれは目も合わせられず、先に早乙女が教室を出た。
おれが遅れて教室を飛び出した時、あいつが廊下に立っていた。
一人だった。
早乙女は無言で、じっとおれを見ていた。今度はおれの方が視線を外し、逃げた…。
もぉ! どうにかしてくれよ~~! なんでなんだよーー!
あいつが、おれを待っていてくれてたというのに!
廊下を小走りに駆けながら、涙が出そうになった。
もうっ…っ。なんなんだよぉっ…っ。
階段を降りようと、次の瞬間、水飲み場の横に隠れた。
今なら、まだ、間に合う!
そっと早乙女の姿を覗き見た。
まだ居た!
あいつは廊下の窓側の手すりに肘をかけて、吹き抜けの下の池を見ているようであり、考え事をしているようでもあり、曖昧な視線をぼっと落としているだけだった。
戻って行き「体育に遅れるぞ!」なんてこと──おれには言えないよ!
気づかれないよう、そのまま階段を駆け下りた。
けど!
あぁっ! もう、くそっ!
二階へ下りる踊り場で、斜面を登るような四つんばいの体勢で、おれはこっそり階段を上っていた。
顔だけ出した。
「あっ…」
あいつが、おれを見下ろしていた。
声なんてかけてくれなかった。おれのこんな恥ずかしい格好を笑ったりもしなかった。
笑って欲しかった。
「何やってんの~!?」そう言って馬鹿にしてくれたら、良かったのに……。
何の感慨もなく、おれの横を通り過ぎて行った。
それからの”あいつとの”時間は、あっと言う間だった。
運動会で、二度だけ喋る機会があった。
もう十月になっていた。
朝、教室へ入った時には数人がまだ居た。もう椅子は殆ど無くなっていた。
おれも、校庭へ運ぼうと椅子を持ち上げた、その時、昨日の歌番組の話をしながら女子たちが教室を出て行くのが見えた。
あいつと二人きりになるのが気まずい。
急いで、その女子たちに続こうと駆け出して、教壇の一段高くなった角に足を引っ掛けて……。
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