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ホームルームが終わったあと、おれたちのクラスは皆、一人も漏れず、まだ教室に残っていた。先生もそれを年に一度の行事だと黙認してくれていた。女子には甘い。
「それでは今から配りまーす」
ガサガサと紙袋が開く音。
その音を耳にしながら、みんなが、改まって席に着いていた。
(女子も貰えるのかな?)
ふと教室のドアを見ると、隣のクラスの筧が、そーっとドアに隙間を開けてキョロキョロしているのが見えた。おれと目が合うと、
「お前のクラスは良いよなー。家庭科部が多いから、クラス全員チョコ貰えんだろ?」
先生はもう居ないとはいえ、よそのクラスだ。筧は少しだけ声を潜め、おれに話しかけてきた。
「お前のクラスは、そういうの無かったのか?」
おれがそう聞くと、筧は本当に残念そうな顔で、
「ああ。ほんっと羨ましいなぁー。あっ、来たぞ?」
前列から順番に、家庭科部の数人が手分けして配り始めた。
そして、おれの列にも──。
あいつだ。
「あーあ。こーんな奴に配られたくないよなー? 他の、女子が良かったわー、おれ~」
そんな厭味を言ったけど、浮かた空気の中では、おれの言葉はむなしく宙を舞った。
「ごめんね」
早乙女が、おれの耳元でそっと呟くように、謝った。
それで調子づいてしまった。
「で? おれらは一体誰にお返しすれば良いの? ただ溶かしただけのチョコを、また固め直しただけの物に、お前ら数人でお返しの山分けか~? この、わらしべ部がっ!」
男子は照れ隠しで大袈裟に笑った。
「そんなこと言うのは…。酷いと思うよ…」
早乙女の声だった。
「なんだよっ!」
魔が差したんだ……。
おれはチョコを床に投げつけた。
チョコをジッと凝視し、口を開いて唖然とした表情の早乙女。
「ひど……」
次の瞬間には、パシン! 大きな音を立てて、おれは早乙女に引っぱたかれていた。
違うんだよ。もっとちゃんと見てくれよ!
「んだよ! 大袈裟に」
教室が水を打ったように静まり返る。
「だから、バレンタインデーなんか、おれは! 大嫌いなんだよ!」
クラス中がおれを悪者扱いした──ように感じ、思わずバッグを掴み教室を飛び出した。
「どけよッ!」
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