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翌日。
教室のドアの前で、一瞬昨日のことが頭をよぎり躊躇したけど、構わず中へ入った。
クラス中を見渡した。いつも通りの朝だった。
席に着いて、すぐに気づいた。
なぜか、おれの机の中にチョコが入っていた。
もう一度教室を見渡す。
所々で、男子は男子、女子は女子で固まり、席に座ってる奴、立ってる奴、走り回ってる奴。あんなことがあったのに、いつも通り。おれに変な視線を向ける奴もいなかったので、安心した。
隣の席の女子、藤原は、少しだけ噂好きなところがある。
それとなしに様子見のつもりで声をかけてみた。
「なぁ、おれ──」
「ん? なに、鈴木?」
藤原はいつものテンション。無理に作ってる感じでもない。
気にしているのは、おれだけか? 大袈裟に取ってしまった?
「いや、昨日の……」
恥ずかしいと感じていたので、声が小さくなってしまった。
なのに藤原は、
「あぁーっ。そう言えば昨日、鈴木なにか怒ってたよねぇ?」
その口調を耳にして、すーっと安心感が広がっていった。普通の会話だ。
そこまで気にするような出来事では、なかったのかもしれない。
「あ、うん。おれ先、帰ったし…」
そう言うと、
「そうだよね。チョコレート忘れて帰ったもんね」
藤原は何事もないように笑っていた。
忘れて帰ったんではなく、投げつけたんだよ…。
「そっ…。それで早乙女に、いきなりビンタされた…」
すると藤原は、大袈裟に目をランランとさせて、こう言った。
「そうそう! 私びっくりしたー!」
おれが”そのこと”を口に出して、初めて、昨日のことを「びっくりしたー!」と、藤原。まぁ、他人事なんてそんなものだよな。
そして昼休みに、それを聞いた。
これは、おれの中だけの問題だ。
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