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待ち合わせの駅で
京急上大岡駅に朝十時に待ち合わせ。
優、朱利、梨子の三人でそう約束して、実際時間通りに来るのは朱利と梨子の二人だけだ。
なぜか優はいつも遅刻する。
学校も始業ギリギリに駆け込んでくる。
遅刻の原因について、三人のうちで一番時間に正確な朱利は一度尋ねたことがあった。
優は困ったように苦笑して答えた。
「それがよくわからなくて……。七時に起きてギリギリだったから六時半に起きてみたんだけど、結果は変わらなかったんだよね。どうしてかなぁ?」
「それを聞きたいのは私のほうだよ」
朱利は心底呆れて返したのだった。
けれど遅れると言ってもだいたい十分以内には来るので、朱利達も何となく許している。
それ以上遅れる時はちゃんと連絡をくれるので、最低限のことはしている、と朱利は思っていた。
そんなわけで、今日も優は絶賛遅刻中だ。
緊急事態にでもあっていない限り、今頃電車の中だろう。
待ち合わせ場所にした改札口で落ち合った朱利と梨子は、いつも通りに優を待った。
「さすがに夏休みは混んでるね」
「夏休みなんだから、みんな家で本でも読んでればいいのに」
「……あんたじゃないんだから」
扇子でパタパタとあおぎながらため息交じりに朱利がこぼすと、軽い調子で梨子が返してペットボトルのお茶を一口飲んだ。
二人の傍らには、小型のキャリーケースがある。
これから一泊二日の旅行をするのだ。
行き先は横須賀。
わざわざ泊まる必要もないくらい地元なのだが、優の提案で泊まりで遊び倒すことになった。
改札口の人の流れから、そろそろ優が来る頃かと思われた時、梨子の服の裾を引く手があった。
驚いた梨子が、眺めていた改札口から視線を移すと、幼稚園生くらいの男の子が不安そうな顔で立っていた。
「おかあさん……?」
小さな声でそう言って、自分のお母さんではないとわかったのか、男の子の顔がますます不安そうに歪む。
梨子も困ってしまった。
「君のお母さんじゃないけど……お母さん、迷子になっちゃった?」
梨子がしゃがんでやさしく話しかける傍らで、朱利は「ふつう、迷子はその子のほうだろう」と呆れ顔をしていた。
男の子には朱利の表情は見えていないようで、梨子をじっと見つめたまま弱々しく頷いている。
「どこでお母さんとはぐれちゃったかわかるかな?」
「おみせ……」
男の子は百貨店のほうを指差した。
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