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おそらく、店内のどこかではぐれて探しているうちに人に流されて外に出てしまったのだろう。
「りっちゃん、案内所に行こう。呼び出しかけてくれるかも」
朱利の提案に梨子は頷き、しかしすぐに「うーん」とうなった。
「そろそろハナが来るんじゃないかな?」
「待たせておけばいいよ。案内所もすぐそこだし、問題ないでしょ」
そうだね、と梨子は納得して男の子と手を繋ぐと、歩き出した朱利について百貨店へと入っていった。
インフォメーションセンターで事情を説明すると、係りの人はすぐに館内放送をかけてくれた。
店内に母親がいれば、しばらくしたら来るだろう。
「りっちゃん、私、ちょっと駅に行くね。ハナがいるかもだし」
「うん、わかった。よろしくね」
先ほどは、待たせておけばいいなどと言っていたが、基本的に朱利は世話焼きだ。
要領も良い彼女のことを、優も梨子も何かと頼りにしている。
朱利に言わせれば、自由奔放な優とマイペースすぎる梨子を放置するなんて、恐ろしくてできないということなのだが。
三人は高校一年生の時に仮入部した文芸部で知り合った。
結局、朱利はその後演劇部に入部したが、気が合った三人は何かと一緒にいた。
クラスは違うが休み時間はたいてい優のところに集まっていた。
ふと、梨子がつないでいた手が引かれた。
「おかあさん……」
男の子の声がして、その見ているほうを向くと足早にこちらにやって来る女の人が見えた。
よほどあちこち探し回っていたのか、その顔には疲れと焦りがにじんでいた。
するりと、男の子の手が離れる。
男の子は母親にもとに駆けていき、求めていた腕に抱きしめられた。
「おかあさん!」
「もう、どこ行ってたの! おもちゃのところにいるって言ってたでしょ!」
「でも、でも……っ」
たぶん寂しくなって母親を探しに出たんだろうな、と梨子は思った。
それはそうと、母親は梨子やインフォメーションセンターの係員に見向きもしない。
ぼんやりと親子のやり取りを眺めている梨子の背に、朱利の声がかけられた。
「ただいま。ハナ来たよ。あの子、お母さんと会えたんだね」
「うん、たった今ね」
「遅れてごめんね」
来る途中で朱利から事情を聞いていた優は再会した親子に少し微笑むと、友人達に遅刻を詫びた。
母親はまだ男の子を叱りつけている。
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