第1章

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 7%の団結    Fファンドの正体  三浦半島の京急油壺マリンパークのレストランのドアを開けると、裕美は油壷の高級老人ホームに住む祖母信江と同じテーブルに若い男が同席していることに気づいた。肌は焼けているが、理知的な印象であった。信江は裕美に気づくと、手招きをした。 「裕美、こちらは村木さん。散歩中に近くの海岸の岩場で足を滑らせてうずくまっていたら、ダイビングをしていた村木さんが見つけてくれて、私を抱えて、ホームまで運んでくれたの。今日はそのお礼にランチをごちそうしているのよ」  裕美は、村木にお礼を言って自分もソフトドリンクを注文、3人は談笑しながら、次第にうちとける。帰りは村木が車で横浜に裕美を送っていくことになった。車内には磯の香りがした。窓から見える葉山マリーナの夜景が目に入る。村木は横浜の金融会社で地元中小企業の創業支援や街づくりの金融サポートの仕事をしている。裕美は自分の仕事に情熱を持っている村木に好感をもった。その「横浜金融」は昔からある不動産金融に実績があるが、最近はフィンテックというITでデータを駆使する金融サービスであるが、同社は特に有望な地元中小企業に融資をするプロジェクトで注目され、株式市場にも上場している。地元の公立大地域経営コースを卒業した村木が魅力に感じたのも、とかく担保や保証人を重視する安全志向の大手金融機関と違って、ITによる将来性診断で、地元企業に資金サポートができるからであった。  ところが、その横浜金融で新たな事態が持ち上がっていた。Fファンド代表の藤井が突然来社、「私どものファンドで、本日御社の株式保有報告書を当局に提出する前にご挨拶をと思いましてうかがったわけです。御社の発行株数の15%を購入いたしました」と通告。横浜金融社長の佐藤は、同席の総務部長をふりかえった。部長は「最近、株価が急上昇していたので、調べてはいたのですが……」と答える。  藤井は微笑みながら 「いやいや、信託も含め複数の社で購入しておりましたから・・・」。  佐藤は鼻白んだ。「わが社の株を保有していただくのはありがたいが、なぜ、そのような面倒なことをしたのですか。具体的に我々にどうしろというのですか。後になって株を市場より高値で引き取れ、とでもいうのではあるりませんよね」。株価をつり上げて高値で売り抜けるグリーン・メーラーを疑ったのである。
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