第1章

4/12
前へ
/12ページ
次へ
 1週間後、横浜地裁前の日本大通には記者が集まってきていた。銀杏並木の黄色が鮮やかであった。数名の記者を前にFファンドの藤井は、「横浜金融の第三者割り当て増資は、正当な株主からの要求に対する法的根拠のない対抗策と思われますので、その執行を停止する仮処分を本日、横浜地裁に提出いたします。といって、あくまでも話し合いの場は設ける心算です」と公表。横浜地裁に入館する藤井の姿は、弁護士なので自信があり、堂々としている。その1か月後に新聞記事は「地裁、増資を認めない仮処分の決定」と伝えた。Fファンドの勝利である。横浜金融の抗弁は認められなかったのである。  翌日、横浜金融の職場では、総務部長の社内放送が社員に流れる。「昨日、横浜地裁より、わが社で計画していた第三者割当て増資を差し止める仮処分の決定が出ました。この事実を厳粛に受け止め、社員の株主はすぐに持ち株会の株を自分に名儀を変更して下さい。たとえ仮処分が出ても、社員、OB、銀行の取引先が合わせた総株数だけでも、45%近くなっておりますので、現在の経営が直ちにおびやかされるような心配はありません。各人安心して、一層社業に専念して下さい」  まさかのロミオとジュリエットか  トリプルタワーズマンションリヴァリエのカフェでコーヒーを飲む裕美に、小走りに走ってくる村木の姿が見えた。ドライブの中で、村木の町おこしへの夢について語り合いながら、ともに好感を持つようになり、時にお茶をしたり、映画を見る仲になっていた。村木を裕美は父に紹介すると招いたのであった。  リヴァリエの高層階からは、富士の夕景がひときわ映える。父親の藤井を裕美に紹介される村木は名刺を見て驚愕した。裕美の姓が藤井で、父親は法律関係ということは知っていたが、まさかFファンドの代表とは予想もつかなかった。村木はうろたえる気持ちを抑えた。  裕美が「お父さま。村木さん、横浜金融で街づくりの金融を担当しているのよ」と口を挟むと、藤井はさすがに驚き、じっと村木を見つめて言った。その表情から、別に事前に村木のことを調べている様子はなかった。 「村木くん。これから食事でもいかがですか。レストランを予約してあるのですが…」。横浜金融のことはひとことひとことも話さなかった。  食事のあと、2人だけになった時、村木は裕美に事情を話した。  さすがに裕美は驚いて、「お父さまがあなたの会社の株をねえ」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加